今月のエッセイ

 
 人を育てる植物園


先日、長野県高森にある「蘭ミュージアム高森」に行ってきました。蘭に関係される人なら、すぐ「唐澤耕司先生のところか」と気づかれるでしょう。三回目を迎える淡路夢舞台ラン展で是非、唐澤先生の講演をお願いしたいと思い、寄せていただいたのです。

その日は朝に淡路島を出て、春日井市都市緑化植物園でボランティアさんたちへ「お正月ディスプレー」の授業を行い、桃花台(小牧)から高速バスに乗り2時間ほどかけ高森へいきました。車の免許を持たない私は電車を使うしかないので最初どんなに遠い所かと思いましたが、高速バスがあり、それに乗れば飯田までは乗り換え無しで行け、結構楽でした。と言っても、桃花台を出たのが1時30分だったので飯田に着いたのは3時半、そこからタクシーで20分くらいでランミュージアムに着いた時にはもう夕ぐれ近くなっていました。つり柿がテーマで特別展を行っていたのか、ランミュージアムの前にはつり柿が並び、ランのイメージとはまったく異なるのに信州の風情が感じられました。

なぜ、ラン展で先生に講演をお願いしょうと思ったかと言いますと、当然唐澤先生はランの大御所ですから淡路のラン展をご覧頂き、批評を頂きたいと以前から思っていたと言うことと、もう一つは先生が監修で出されている絵本を買ったところ、その編集をされている女性からお礼のメールが届いたのです。彼女は唐澤先生と以前からお知り合いの編集者だったのですが、ランのことを唐澤先生から色々教えてもらううちに、ランの魅力とすばらしさにとりつかれたと同時に、ランを通して自然の仕組みだけでなく人生も学べると感じ、是非小さい子たちにこのことを伝え、科学する目と強い心を持つ子に育ってもらいたいと思い、唐澤先生にランの童話を書いてもらったそうです。

植物園でも、動物園でも全国的に知られる有名園長がいます。その数は非常に少ないけれど、その方々はそれそれに非常な情熱をもって園運営を進められています。唐澤先生も「広島植物園の唐澤」と言われる、誰もが名を知る有名園長さんでした。有名園長でも学者タイプ、プロデューサータイプとありますが、私は先生をどちらかと言えば学者タイプの方、つまり専門で非常に力のある方と思っていました。だから、絵本を作られているというのでどのような絵本を作られるのかと興味を持ち購入したわけです。編集者のメールではワークショップされていると聞き、どのようにされているのかがさらに好奇心を高めました。

私も植物館では、私が書いた脚本の子供ミュージカルを春、クリスマスのイベント時に植物館で結成した子供ミュージカルグループが演じています。基本は共生をテーマとしています。せいりふや歌詞の中に自然の大切さを伝えるメッセージを織り込み、いつか子供たちがそのことに気づくのではと思い続けています。いろんな人はいるけどたぶん植物園関係の人でミュージカルをしている人と言うのはきっと私一人と思いますが、学者タイプと思っていた先生が子供たちの教育、いや、子供たちにメッセージを伝えることに積極的活動をされているというのは驚きでした。 夢舞台ラン展を開催する前、はっきり言って私はランにあまり、興味はありませんでした。大学時代の先輩方たちには、恵泉の西村先生、香川大の田中先生、広島植物園の石田園長とラン専門の方が多かったのですが、私はあまりランに興味がありませんでした。

ラン展も昔ドームで第1回目を見た時「これ何??」と言うのが正直な感想です。ランのてんこ盛りと言う表現がぴったりで、決して美しいという物ではありませんでした。

ランはおよそ2.5万種あり、植物の中では一番多様性に富んだ花ということは環境に合わせて様々に進化してきたと言うことなのです。しかし、一般的にランという言葉を発する時にイメージするのは「カトレア」や「シンビジウム」で、決して「ネジバナ」ではないのです。ランは豪華な花、人工的な花というイメージが強いのです。
ラン展にしてもどちらかと言えば、主催者はランの華やかさ、豪華さでお客様を得たいということから、それらを強調する傾向にあります。豪華なランは各々個性が強く、主役ばかりで美しいディスプレーになりにくいのです。
ランで一番面白いと言うか「あっぱれ」と言いたくなるのは美しい色・形も香りも虫をだまし、自分たちの子孫を残すための受粉を成功させるためだということです。環境を変えず、自らの姿を環境に合わせ一番効率の良い形で子孫を残す姿から、自らのライフスタイルを変えることなく地球環境を破壊し続ける人間が今、学ばねばならないことは多いのです。

そんなことから私はラン展を行うなら、まず花の色、形、香りの美しさを見せる飾り方・エクステリアの提案を行う。2つ目はランと虫のかかわりから、ランの進化の姿のすばらしさを伝える展示をしたいと考えていました。この二つ目と言うのがなかなか大変です。まず虫を集めること、次に花がその時ちゃんと咲くかどうかと言うことです。また、どのような仕かけになっているのかを具体的に理解するには映像でないと難しいです。
高森のランミュージアムでは、それを子供たちがワークショップで体験して学習しているのです。絵本の内容どおり、ラン役、虫役をつくりお芝居のように演じ、受粉の仕組みを学んでいるらしいです。子供たちの演技指導や衣装を担当しているのが編集者の女性、矢澤さんと言う方です。彼女の願いはランの生き様を見せ、いじめに悩む子どもたちに「ランだって虫をだましたり、いじめたりしていきているんだ。これが生き物の世界の現実なのだ。生きていく所にはそんな物(いじめのようなもの)があって当たり前で、そんなことに負けないで強い子になって」と言いたいそうだ。

このワークショップは幼稚園の協力で幼児に対して行われています。仮面ライダーの話しかしなかった子供が虫やランの話を親に聞かせてくれるとお母さんが大喜びされているそうだ。
植物園の存在意味は非常に広い意味がある。指定管理者制度で効率的な運営をと思われているお役所の方々に言いたいのは、ここである。公務員がちゃんとできるとは限らないので民間に任せる方が良いとは思うが、管理者を1次的経済的効率だけで判断するとだめだということだ。
それよりも何よりも、植物園が社会にもたらす効果も知らずに一時の勢いで作られた植物園が多いことか。植物園が社会に与える効果に気づいていただきたい物だ 。
唐澤先生は名誉園長からこの春、園長になられた。「自分が提案して作ったものは、内容も運営も最後まで面倒を見る。」それが作り手の責任、想いである。

一生現役の先生の姿、ランに燃え、植物園のキーパーソンになっている矢澤さん、穏やかなスタフの方々を見て、「人を育てる良い植物園だなぁ」と感じました。

 

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